2010年5月9日日曜日

ロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez)

  

 
 “おれたちがガキんときに見た、あの 二線級で クソみたいだったけど心底楽しんで見た二本立ての映画みたいなもんをつくろうぜ”


とクエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスの二人が言って、映画『グラインドハウス』(2009)は作られました。











 ロバート・ロドリゲスは、24歳の若造も若造だったときに、私立高校の文化祭での記録映像並みの製作費を身銭を切って稼いで一本の映画を撮りました。


 それが『エル・マリアッチ』(1992)。ロドリゲスが子供のときに見た映画の娯楽、痛快さ、暴力、血みどろ、果てにある悲哀、すべてを込めた作品でした。







 24歳の青年のすべてがこもったフィルムは多くの人の目に留まり、本人が想像もしなかった高い評価を得ました。そして『エル・マリアッチ』はロドリゲス本人の手によって、アントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、ダニー・トレホ、チーチ・マリン、タランティーノ(といったロドリゲス・ファミリー)らが出演し、『デスペラード』(1995)としてリメイクされます。












 破れたくつ下のほつれた糸の先まで映画に漬かった(もしくは、汚い部屋の、散らかったテーブルの上のへこんだ缶コーラの奥にある、いつのか分かんないくらい古い出前のピザのヘタまで映画に漬かった)タランティーノと出会い、盟友になったロドリゲス。二人は意気投合を経てすぐに一本の映画の企画にたどり着きます。




 それが『フォー・ルームス』(1995)。四つの章からなるオムニバス映画でした。
ロドリゲスが撮ったのは、マフィアの親(アントニオ・バンデラス)がホテルのボーイに子供の面倒を見させるというスラップスティックな『かわいい無法者』("The Misbehavers")という作品でした。

 コメディ映画というテーマを掲げている割に、どぎつい作品が(当たり前のように)並ぶ中、『かわいい無法者』はようやく一息つくことができる作品で、映画全体のバランスを取っているように思えました。

 ですが、今にして思えばロバート・ロドリゲスはこの頃から自身の家庭で育つ子供のために映画を撮りたいと思っていたのかもしれません。

 







 そして、その翌年の『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996)は前半はタランティーノが監督し、後半はロドリゲスが監督した映画でした。


 いわばロード・ムービーで、犯罪を犯した兄弟が国境をわたる。アメリカにいるときは(そのどこまでもが)クエンティン・タランティーノの作品ですが、国境を越えてメキシコに渡り、"Titty Twister"(“竜巻みたいなおっぱい”)というふざけた名前のバーに立ち寄ったことをきっかけに、(見事なまでに)ロバート・ロドリゲス 監督作品になります。
 これまで、こんな感じでコントラストを見せた映画があったでしょうか いやありません。





 この映画にはタランティーノ自身も出演しました。この頃から自分も出たかったんでしょう。おそらく。でも、行き切ったキレた役柄は見所の一つでした。

 主演したジョージ・クルーニー(George Clooney)はこの映画での1シーン(か、緊急医療ドラマのなんちゃら)で現在の(とんでもない)地位を獲得することになりました。




 その冒頭の9分弱のシーンは犯罪アクション映画史に残り続けるでしょう。
一組の兄弟がたった一枚のテキサス州のロード・マップを買いに一軒の店を訪ねる。


 この先何が起こるかまったく分からない。実に見事な映画の幕開けです。

















 さらに、その2年後に撮った『パラサイト』(1998)は ・・・  。


この映画、なんといえばいいのでしょう。

 若さがあって、恋があって、アメリカン・フットボールがあって、イジメがある健康的な学園ものに、ナメクジみたいな寄生虫が襲いかかって、先生の首がぼんぼん飛んだり、じたばたするんだけど、結局そのナメクジに塩かけちゃえ、ということになって、「あ、塩ねえや」ってなって「じゃあ代わりにドラッグかけちゃえ」でドラッグかけちゃうとナメクジとけちゃった。

ということでしょうか。



 ロバート・ロドリゲスの映画を語るときはどうしても擬音が多くなります。彼はぐいぐい撮った映像を、ばんばん編集する。"shot, chopped, and scored"と呼ばれるロドリゲス独自の作業。そうやってできた映画を私達は観ています。

 特にこれといってすることがないときが『パラサイト』を見るときかもしれません。テレビの前のソファに座って、画面を見る。手には冷えたビールがある。もし許せるのならスパイスのきいたタコスなんかがあればもっといい。









 2001年、ロバート・ロドリゲスと(今となっては元)妻でありプロデューサーでもあるエリザベス・アヴェランは、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』の続編の権利を売った資金で映画制作スタジオ『トラブルメーカー・スタジオ』を設立しました。ロドリゲスは、ほんの一握りの映画監督しか持つことを許されないファイナル・カット権を手に入れたわけです。

 これをきっかけに、ロバート・ロドリゲスは自分の映画の特色から「暴力」と「血みどろ」を取り除いてしまいます。


 そうして撮られたのが『スパイキッズ』シリーズです。
以前から子供向けの娯楽作品を撮りたかったのでしょう。







 

 ロドリゲスはスタジオに子供たちを呼び、平和で健康的な時間を過ごしました。



 これは私達にとっては暗黒時代の訪れでした。
彼ほど痛快に「血みどろ」を撮る監督はいませんでしたから。ロバート・ロドリゲスはもう“映画”を撮らないつもりなのか、誰もがそう思いました。

 「人を切らなくなった刀はすぐになまくら刀へと成り果てる」そう言った人もいました。



 



 たとえジョニー・デップが出たとしても『レジェンド・オブ・メキシコ / デスペラード』(2003)は私達を満たしてはくれませんでした。





 ただ単に、銃撃があって、人が倒れて、血が流れる、そういうものを見たいわけではないんだと。そう手紙に書いて彼に送った人もいたほどです。 


 当時の彼に何があったのかは知りません。本人とその周囲にいる極少数の人のみが知るところでしょう。悪名高いミラマックスとは比較的うまくやっていたと聞いていました。ただ、全米監督協会(DGA)と全米脚本家組合(WGA)から脱退したことから、アメリカの映画制作のしきたりや過程に強く反発していたことは想像できます。






 そして、いくつかの子供向け映画と『シン・シティ』(2005)を経て、冒頭の『グラインドハウス』(2009)にたどり着きます。


 『グラインドハウス』はロドリゲスが監督する『プラネット・テラー』



とタランティーノが監督する『デス・プルーフ』




からなる二本立て映画仕立ての一本の映画です。二本立ての映画である雰囲気を再現するため劇中には架空の映画の予告編まで作られました。










 ロドリゲスの刀は戻ってきたか。

正直な感想を言いますと『デス・プルーフ』はよかった。でも『プラネット・テラー』はどうなんだ。

 アメリカの田舎町にある“秘密の軍事基地”そこで扱われる“生物兵器”、突如現われる“ゾンビ”、“大型のバイク”、“激しい銃撃”、“血みどろ”、“片脚マシンガン”

 確かにそれっぽい材料はそろってました。しかし手は届いてない。

 ブルース・ウィリスの出演が生きてもいないし死んでもいない(彼が出てくればどうしても彼に目が行く。だから端役のようにあっけなく死ぬか、最後の見せ場を飾るかどちらかしかなかったはずだ。劇中の彼の扱いはそのどちらでもなかった)。

 駒が足りなかったのか。『フロム・ダスク・ティル・ドーン』でハーヴェイ・カイテルが持ってた杭打ち機だったり、セックスマシーンの股間の仕込み銃みたいな(馬鹿げているのに痛快な)インパクトはない。少なくともあと3つくらいは見せ場が必要だった。いっそのこと“両腕バズーカー”とか“丸いガスタンクのボウリングでゾンビを一網打尽”があってもよかったんじゃないでしょうか。






 架空の映画の予告編のほうが面白そうだった。
長刀のなたという意味の『マチェーテ』(『Machete』)。ロドリゲスの従兄弟であるダニー・トレホ(どうでもいい話ですが、もし日本人がダニー・トレホを演じるのなら、ブラックマヨネーズの吉田敬しかいないでしょう。あの容姿、そこから出る暗黒のオーラは彼しか再現できません)が主演し、ロドリゲス・ファミリーであるチーチ・マリンが出演していました。そしてこの架空の映画がロドリゲス監督作品として実現するという噂があった。












 噂は本当でした。
そして出演者たちの名前と、その予告編を見て驚いた。






映画『Machete』
(2010)

監督,製作,脚本,ロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez 1968.06.20- )

監督,イーサン・マニキス(Ethan Maniquis - )

製作,エリザベス・アヴェラン(Elizabeth Avellan 1960.11.08- )

クエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino 1963.03.27- )

出演,ダニー・トレホ(Danny Trejo 1944.05.16- )

ジェシカ・アルバ(Jessica Alba 1981.04.28- )

ミシェル・ロドリゲス(Michelle Rodriguez 1978.07.12- )

ロバート・デ・ニーロ(Robert De Niro 1943.08.17- )

チーチ・マリン(Cheech Marin 1946.07.13- )

リンジー・ローハン(Lindsay Lohan 1986.07.02- )

スティーヴン・セガール(Steven Seagal 1951.04.10- )

ドン・ジョンソン(Don Johnson 1949.12.15- )



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