2012年10月29日月曜日

ミスター・ボージャングル

 オンタイムで見ることができなかった『プロフェッショナル 仕事の流儀 高倉健スペシャル』を再放送で見ました。



「これから何十年も生きてるわけじゃないんだから、本音の話をちょっとそろそろしておかないと」



 異例密着取材よってこれまでに語られることのなかった等身大に近い高倉健映し出される

 当時炭鉱栄えていた福岡県中間市生まれ俳優のへと進んだ経緯から現在(81歳)に至るまで紹介される。



  印象に残ったのは、「体は唯一の資本」だということ。

これは俳優としてという意味ではなく、一人の人間として、動くことを生業としている存在としてという意味としてでも。



「笑うとか、泣くとか、怒るとか、入れ墨いれて人を斬るとか、芝居っていろんなのがあるんだろうけど、こういう人生もあってみなさんどう思いますかっていう」

「こういう生き方も悪くないんじゃないですかということをちょっとでも見せたいとか。その人のやっぱり人生体験というか、それが俳優さんの価値なんでしょうね」

「何にもないのはそれはない。人生終わる人もいっぱいいるわけだよね。名前だけは有名になったとかさ、金だけはいっぱい持ったとかね、権力はいっぱい握ったとか。でも身を捨ててでも悔いがないという人間に出会ったかどうかという」


「僕はそう思ってやってますけどね」

  言葉が刺さる。



やってるというのは映画『あなたへ』での自分の役に対する姿勢のこと。



 北陸の刑務所で長年勤めていた倉島英二のもとに亡き妻洋子が書いた絵手紙が届く。

絵手紙はもう一枚あり、洋子の故郷である長崎県平戸市の局留め郵便だったため倉島英二は長崎県平戸市を訪れる。

妻洋子が生まれ育った平戸市を巡り、町の人に出会い、海を見る。

倉島英二はそこである事件に巻き込まれ、自ら共犯者となることを覚悟する。

長年刑務所で勤めた一人の人間が旅先で出会った他人に肩入れし、罪を見過ごし共犯者となる。



 役柄を通じ、感情の動きと行動に至るまでを納得がいくまで追っていく。






 明かされることのなかった高倉健の日常だが、取材を通じていくつかのことが分かる。

朝はナッツがたくさん入ったシリアルにヨーグルトをかけたもの。

朝しっかりと食べて、夜までほとんど何も口にしない。

体重を70kg以下に維持するためでもある。


都内にいる時は決まった理髪店に行く。

そこで髪を切ってもらうこともあるし、ただ訪れ店主と談話し、コーヒーを飲むときもある。

理髪店内には専用の個室があり、私物やFAXまでもが置かれている。




 日常生活において何より大切にするのは、時に熱して動きやすく、また冷えて固まりやすい心、感情、気持ちと呼ばれる不安定に揺れ動くものをより揺れ動きやすい状態に保っておくこと。


言い換えれば、常に自分をセンシティヴな立場に置くこと。

そしてそのセンシティヴィティを保つための一つの手段として高倉健は音楽を用いる。


震災以降、朝は必ず山下達郎の『希望という名の光』を聴く。







 そして、映画『あなたへ』の撮影最後の朝、高倉健はスタッフに声をかけコーヒーを飲むように勧める。

その時にかかる曲が『ミスター・ボージャングル』。


色んなミュージシャンがカバーしたが、このとき流れていたのはニーナ・シモンが歌う『ミスター・ボージャングル』でした。





 ラスト・シーンの撮影を待つ間、コーヒーを飲みながら何度も繰り返し『ミスター・ボージャングル』を聴く。


He jumped so high, jumped so high


 そうニーナ・シモンが歌い、涙こらえるようなギターの音色が聞こえる。

そのとき高倉健は眉間にしわを寄せる。

歌に込められた思いを刻みつけたときの痛みを思い出しているようにも見える。

そしてコーヒーをまた一口飲む。








カントリー・シンガーのジェリー・ジェフ・ウォーカーが作詞作曲した『ミスター・ボージャングル』。

若かりしウォーカーがニューオーリンズの酒場で羽目を外し、牢屋に入れられたときに出会った一人の男性のことを歌っている。





俺はボージャングルって人を知ってるんだ。

彼はすりきれた靴で踊って見せてくれたんだ。

白髪頭で、くたびれたシャツを着て、だぶだぶのパンツと古いダンスシューズを履いて。

彼はとても高く飛んでくれた。とても高く。

そして軽やかに着地した。



牢屋の中で落ち込んでいた俺に彼は人生を語ってくれたんだ。人生を。

そして笑って、足を打ち鳴らしステップを見せてくれた。



彼はミンストレル・ショーだったり、郡の余興だったりで南部中を回っていた。

15年間、彼と彼の愛犬がどんなふうに旅めぐりをしてきたのか、涙を浮かべて語ってくれた。

その愛犬も年老いて死んでしまった。

20年前のことなのに彼は今もまだ悲しんでいた。


彼は言った。

「今も酒と小銭のため機会があるたびに安酒場で踊るんだよ。
でも、飲みすぎるから大抵は郡の牢屋に入っちまってるんだ」

彼は頭を振った。

俺には誰かが彼に頼んでるのが聞こえたんだ。


ミスター・ボージャングル、ミスター・ボージャングル、ミスター・ボージャングル

踊ってよ






Mr. Bojangles / Jerry Jeff Walker




I knew a man Bojangles and he danced for you, in worn out shoes.
With silver hair a ragged shirt and baggy pants,
The old soft shoe.
He jumped so high, jumped so high,
Then he lightly touched down.



 I met him in a cell in New Orleans I was down and out.
He looked at me to be the eyes of age as he spoke right out.
He talked of life, talked of life, laughed slapped his leg a step.



Mister Bojangles, Mister Bojangles, 
Mister Bojangles, dance.


He said his name, Bojangles,
then he danced a lick, across the cell.
He grabbed his pants a better stance oh he jumped up high,
He clicked his heels, he let go a laugh, let go a laugh,
Shook back his clothes all around.


He danced for those at minstrel shows and county fairs throughout the South.
He spoke with tears of fifteen years how his dog him, he traveled about.
His dog up and died, he up and died,
After twenty years he still grieves,



Mister Bojangles, Mister Bojangles, 
Mister Bojangles, dance.


He said, "I dance now at every chance in honky tonks for drinks and tips.
But most the time I stand behind these county bars cause I drinks a bit."
He shook his head and as he shook his head,
I heard someone ask him please,


Mister Bojangles, Mister Bojangles, 
Mister Bojangles, dance.