『ハリス・バーディックの謎』 (『The Mystery of Harris Burdik』)
著者,クリス・ヴァン・オールズバーグ(Chris Van Allsburg 1949.06.18- )
訳者,村上春樹
出版社,河出書房新社
映画『ポーラー・エクスプレス』、『ジュマンジ』の原作として有名なクリス・ヴァン・オールズバーグの絵本。他にも著作があり、あまり知られていない名作が多数あります。
その中でも『ハリス・バーディックの謎』という本が素晴らしい。内容は、いたってシンプル。14枚の絵と、その一つ一つにつけられた題名と短い文章。ページをめくり、絵を見て、文章を読む。そしてまた絵を見る。また文章を読み、絵を見る。すると、意識が一枚の絵の中に入り込み、想像力で映写機のようにかけ巡る。
その冒頭にある序文がこれです。
はじめに
この本に収められた絵を私が初めて見たのは一年前のことである。場所はピーター・ウェンダーズという人物の家だった。ウェンダーズ氏は今ではもう引退しているが、当時は児童書専門の出版社に勤めていた。本にするためのお話と絵を選ぶのが彼の仕事だった。
三十年前に、一人の男がピーター・ウェンダーズの会社を訪れた。男はハリス・バーディックと名乗った。バーディック氏はこう語った。私は十四の お話を書き、そのひとつひとつの為に沢山の絵を描きました。今日は見本としてお目にかけようと思って、一冊につき、絵を一枚だけ持参しました、と。
ピーター・ウェンダーズはそれらの絵にすっかり魅了されてしまった。これらの絵についている話の方を一刻も早く読みたいものですな、と彼は言った。それでは明日の朝に原稿を持って参りましょう、と画家は言った。彼はその十四枚の絵をウェンダーズのところに置いていった。でも翌日、彼はやって来な かった。その翌日も現れなかった。ハリス・バーディックの消息はそよとも知れなかった。何年にもわたって、ウェンダーズは調べてまわった。バーディックとはいかなる人物であり、ハリス・バーディックは完全なる謎の人物のままである。
彼の失踪だけが、あとに残された謎ではない。これらの絵についていたお話というのはいったいどういうものだったのだろう?そこにはいくらかのヒントはある。バーディックはそれぞれの絵に題名と説明文をつけている。私がピーター・ウェンダーズに、絵と説明文を見れば話というのは自然に浮かんでくる ものじゃないですかと言うと、彼はにっこりと微笑んで、部屋から出ていった。そしてほこりのかぶった段ボールの箱を持って戻ってきた。その中には何十もの お話の原稿が入っていた。どれもみんなバーディックの絵について触発されて書かれたものだった。それらは何年も前にウェンダーズの子供たちや、その友人たちによって書かれたのだ。
私はそれらの話を読んでみた。みんな立派な出来だった。あるものは風がわりだったし、あるものは滑稽だったし、あるものは真剣に怖かった。他の子供たちも同じようにこれらの絵に触発されることを希望しつつ、ここに初めてバーディックの絵を複製出版するものである。
クリス・ヴァン・オールズバーグ
ロード・アイランド プロヴィデンス
―本著より抜粋
個人的なお気に入りはIt was a perfect lift-off.です。