2010年5月14日金曜日

『それでも恋するバルセロナ』

 
 

 舞台は夏のスペインの北東部、バルセロナ。 






 この作品は、バルセロナを州都にもつカタロニアが、映画製作費1500万ドルの10パーセントを税金で負担するとして招致されました。また、なぜ舞台をバルセロナにしたのかという問いにウディ・アレンはこう答えています。「呼ばれたから。でもスーダンに呼ばれても行かないよ」


 スペインに招致され、150万ドルを出してもらったにもかかわらず、出演する俳優のほとんどがスペイン語ではなく英語を喋っている。地元スペインの人々はこのことに憤慨したという。
 でも、この劇中にある英語のナレーションこそがこの作品を、誰が見てもわかりやすいエンターテイメントの域へと引き上げています。





 アメリカ、ニューヨーク在住のヴィッキー(レベッカ・ホール)は、カタロニア文化についての修士論文を完成させるため親友のクリスティーナ(スカーレッ ト・ヨハンソン)を誘い、バルセロナに住む遠縁の親戚を訪ねる。

 ヴィッキーは現実的で堅実な生活を好み、同じくニューヨーク在住の―平凡で退屈だが大企業に勤め安定した収入と地位を得ている―ダグ(クリス・メッシーナ)と婚約している。
 クリスティーナは、それが情熱的で魅力的であれば衝動的な―心の赴くままな―行動もいとわない。
二人は互いに自分の特質を認識し、自らにない部分を持つ友に惹かれてもいた。



 監督し、脚本を書いたウディ・アレン自身は、
「ヴィッキーは保守的な子だ。夫や子どもたちとの間で、妥協を強いられてしまい、エキサイティングじゃない人生かもしれないけど、いつもある程度は幸せで、 最悪な人生ではないね」と分析する。一方で、好奇心にあふれ、失敗を恐れない恋をするクリスティーナに関しては、「彼女は実験的な恋に身を投げるような冒険心がある。エキサイティングな人生ではあるよね」
と言っている。  もっともな話だ。



 
 ある夜、ヴィッキーとクリスティーナは訪れた画廊で画家のファン・アントニオ(ハビエル・バルデム)と出会い、オビエド(北西部アストゥリアス 州の州都)で週末を過ごさないかと誘われる。
 アントニオの誘いを当たり前のように拒否するヴィッキーと、完全に衝動的な受動的体勢をとっているクリスティーナは、結局オビエドを訪れることとなる。


 そして二人はアントニオとランチを共にする。アントニオはその席で芸術と愛について語り、前妻であるマリア・エレーナ(ペネロペ・クルス)とすさまじい離婚劇を繰り広げた経緯について話した。

 スペインの夏の夜。アントニオに傾倒しかかっていたクリスティーナはその直前で体調を悪くし寝込んでしまう。友人が寝込み、バルセロナに帰るに帰れなくなってしまったヴィッキーはアントニオと一夜限りの関係をもってしまう。

 保守的で堅実だったヴィッキーが衝動的な行動をとったのは、穏やかで心地よいスペインの陽気と地元のワイン、そして抒情詩を奏でるようなスパニッシュ・ギターの調べが影響したのかもしれない。
ひょっとすると、ギターの音色に関係なく、ヴィッキーには保守的で堅実的な行動をとる自分を変えてみたいという願望が心の底にあり、それがアントニオを前にして浮かび上がっただけかもしれない。



 ヴィッキーにはその兆しのようなものがあった。
バルセロナに滞在して数日後、カタロニア料理を提供する地元レストランにおいてプロさながらのマーケット・リサーチを終えた夕方のことだった。

 クリスティーナと訪れたオープンガーデンの店で二人は地元の赤ワインを飲んでいた。そのオープンガーデンのテーブルは自分たちを含めた少しの観光客と地元の人たちとで埋まっていた。
 それぞれが少しのワインを飲み、語らい、夕食までのひと時を楽しんでいた。優雅で、落ち着く至福の瞬間だった。陽が沈みゆく中、胸元のあいたグレーのカットソーと黒のコット ンパンツといったラフな服装のヴィッキーの長い髪はスペインの風に揺れていた。ガーデンの中心では一人の男がスパニッシュ・ギターを奏でていた。

 バルセロナの夏、かすかに風吹く中、空を赤く染めていた陽はゆっくりと沈む。スパニッシュ・ギターのメロディーはヴィッキーの中に沈みこんでいった。スペインの陽とともに。そしてそれはヴィッキーの心のどこかを強く揺さぶった。



 ともかくもヴィッキーはアントニオと寝た。そしてそのことを親友のクリスティーナに言えずにいた(もちろん婚約者のダグにも)。
 
 バルセロナに戻ってきた二日後、クリスティーナはアントニオに誘われる。
ワインを試飲し、アントニオの自宅のアトリエを訪れたクリスティーナは、そこで彼が描いた作品の数々を見る。止める理由のない衝動的で情熱的なクリスティーナの感情はアントニオに注がれ、アントニオも自身の生活をより情熱的にするクリスティーナの存在を求めた。


 アントニオとクリスティーナが同棲を始めたその一方で、ヴィッキーの婚約者のダグがバルセロナを訪れる。
情熱的な画家アントニオと衝動的なクリスティーナの関係に対し、経済的には成功しているが保守的で退屈でもあるヴィッキーとダグの関係は対照的に向かい合うこととなる。

 そこにアントニオの元妻のマリア・エレーナが現れ、クリスティーナとアントニオの関係に割って入っていき、物語はスパニッシュ・ギター(優雅な演奏で始まるが、やがて激しく情熱的になっていく)そのもののような展開を見せ始める。














映画『それでも恋するバルセロナ』 (『Vicky Cristina Barcelona』)
(2008)

監督,脚本,ウディ・アレン(Woody Allen 1935.12.01- )

撮影,ハビエル・アギーレサロベ(Javier Aguirresarobe 1948.10.10- )

出演,スカーレット・ヨハンソン(Scarlett Johansson 1984.11.22- ) ... Christina

ペネロペ・クルス(Penelope Cruz 1974.04.28- ) ... María Elena

レベッカ・ホール(Rebecca Hall 1982 - ) ... Vicky

ハビエル・バルデム(Javier Bardem 1969.03.01- ) ... Juan Antonio

パトリシア・クラークソン(Patricia Clarkson 1959.12.29- ) ... Judy

クリス・メッシーナ(Chris Messina 1974.08.11- ) ... Doug







映画「それでも恋するバルセロナ」公式サイト