2011年6月12日日曜日

BIUTIFUL ビューティフル

  
 



ある場合には運命っていうのは、絶えまなく進行方向を変える局地的な砂嵐に似ている。





君はそれを避けようと足どりを変える。そうすると、嵐も君にあわせるように足どりを変える。君はもう一度足どりを変える。すると嵐もまた同じように足どりを変える。何度でも何度でも、まるで夜明け前に死神と踊る不吉なダンスみたいに、それが繰りかえされる。






なぜかといえば、その嵐はどこか遠くからやってきた無関係ななにかじゃないからだ。そいつはつまり、君自身のことなんだ。君の中にあるなにかなんだ。




だから君にできることといえば、あきらめてその嵐のなかにまっすぐ足を踏みいれ、砂が入らないように目と耳をしっかりふさぎ、一歩一歩とおり抜けていくことだけだ。




そこにはおそらく太陽もなく、月もなく、方向もなく、あるばあいにはまっとうな時間さえない。




そこには骨をくだいたような白く細かい砂が空高く舞っているだけだ。そういう砂嵐を想像するんだ。






映画『BIUTIFUL ビューティフル』公式サイト




 








 そしてもちろん、君はじっさいにそいつをくぐり抜けることになる。そのはげしい砂嵐を。形而上的で象徴的な砂嵐を。でも形而上的であり象徴的でありながら、同時にそいつは千の剃刀のようにするどく生身を切り裂くんだ。何人もの人たちがそこで血を流し、君自身もまた血を流すだろう。温かくて赤い血だ。君は両手にその血を受けるだろう。それは君の血であり、ほかの人たちの血でもある。
 そしてその砂嵐が終わったとき、どうやって自分がそいつをくぐり抜けて生きのびることができたのか、君にはよく理解できないはずだ。いやほんとうにそいつが去ってしまったのかどうかもたしかじゃないはずだ。でもひとつだけはっきりしていることがある。その嵐から出てきた君は、そこに足を踏み入れたときの君じゃないっていうことだ。そう、それが砂嵐というものの意味なんだ。




―「海辺のカフカ」より抜粋

2011年6月5日日曜日

『ハリス・バーディックの謎』

『ハリス・バーディックの謎』(『THE MYSTERIES OF HARRIS BURDICK』)という本があります。







著者はアメリカのミシガン州に生まれたイラストレーターであり絵本作家であるクリス・ヴァン・オールズバーグ。



映画化された『ジュマンジ』や




『ポーラー・エクスプレス』の原作者でもあります。










『ハリス・バーディックの謎』という本、絵本といえども内容はとても変わった構成になっています。
日本語に翻訳したのは村上春樹さん。


ページを開けば左に短い文章が。

そして右には一枚の絵が。



文章は絵のことを指し示し、絵は文章で動き出す。






本の冒頭にはこんな一文が。




はじめに


 この本に収められた絵を私が初めて見たのは一年前のことである。場所はピーター・ウェンダーズという人物の家だった。ウェンダーズ氏は今ではもう引退しているが、当時は児童書専門の出版社に勤めていた。本にするためのお話と絵を選ぶのが彼の仕事だった。

 三十年前に、一人の男がピーター・ウェンダーズの会社を訪れた。男はハリス・バーディックと名乗った。バーディック氏はこう語った。私は十四のお話を書き、そのひとつひとつの為に沢山の絵を描きました。今日は見本としてお目にかけようと思って、一冊につき、絵を一枚だけ持参しました、と。

 ピーター・ウェンダーズはそれらの絵にすっかり魅了されてしまった。これらの絵についている話の方を一刻も早く読みたいものですな、と彼は言った。それでは明日の朝に原稿を持って参りましょう、と画家は言った。彼はその十四枚の絵をウェンダーズのところに置いていった。でも翌日、彼はやって来なかった。その翌日も現れなかった。ハリス・バーディックの消息はそよとも知れなかった。何年にもわたって、ウェンダーズは調べてまわった。バーディックとはいかなる人物であり、ハリス・バーディックは完全なる謎の人物のままである。

 彼の失踪だけが、あとに残された謎ではない。これらの絵についていたお話というのはいったいどういうものだったのだろう?そこにはいくらかのヒントはある。バーディックはそれぞれの絵に題名と説明文をつけている。私がピーター・ウェンダーズに、絵と説明文を見れば話というのは自然に浮かんでくるものじゃないですかと言うと、彼はにっこりと微笑んで、部屋から出ていった。そしてほこりのかぶった段ボールの箱を持って戻ってきた。その中には何十ものお話の原稿が入っていた。どれもみんなバーディックの絵について触発されて書かれたものだった。それらは何年も前にウェンダーズの子供たちや、その友人たちによって書かれたのだ。

 私はそれらの話を読んでみた。みんな立派な出来だった。あるものは風がわりだったし、あるものは滑稽だったし、あるものは真剣に怖かった。他の子供たちも同じようにこれらの絵に触発されることを希望しつつ、ここに初めてバーディックの絵を複製出版するものである。

クリス・ヴァン・オールズバーグ
ロード・アイランド プロヴィデンス








たとえばこの一枚。



左のページにはこうあります。





天才少年、アーチー・スミス

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小さな声が言った、

「あの子がそうなのかい?」





その右ページには、













また別のページには、






七月の奇妙な日



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彼は思い切り投げた。
でもみっつめの石は跳ねながら戻ってきた














そしてまた別のページには、



招かれなかった客



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彼の心臓はどきどきしていた。

ドアの把手はたしかに回ったのだ。












さらに、













七つの椅子



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五つめは結局フランスでみつかった。











題名と、ごく短い文章でミステリアスな物語が想起され、緻密に描かれた絵によって物語の謎はさらに倍化し、複雑化していく。










最近、これによく似た構造のものを見つけました。





地獄のミサワの「女に惚れさす名言集」





地獄のミサワという漫画家による「かっこいい男子達が言う女に惚れさす名言」とはこんなものがあるのではないだろうか、という問題提起。

いや、怠惰に生活する我々に対する警鐘なのかもしれません。






まずは、実際のところマジ痛いんだけれど、それを我慢できてるって俺、かっこいいだろう、てか女惚れるだろう、と思ってそうな男子(吉岡)が現れます。







惚れさせ6 「怪我」






痛みをこらえる右腕の震えが惚れる所以ですね。



吉岡くんは次にこんな目にも遭いますが、痛くないんです。




惚れさせ53 「犬」



さらに、



惚れさせ90 「家までは我慢」







惚れさせ128 「超痛い」

 

 

 

惚れさせ166 「入った」

 

 

 

惚れさせ181 「小指」

 

 

 

どぉーりでジンジンして紫色化していくわけだ・・・

 

 

 

惚れさせ226 「今回はたまたま刺さっちゃったけど」















他に、あのジョニー・デップに激似な男(桜井)が現れます。


惚れさせ143 「意識」






惚れさせ186 「確認」





惚れさせ213 「パイレーツ」






惚れさせ231 「センスも」





惚れさせ245 「俺に似合う服」





似合う?じゃあ俺にも似合うか・・・




惚れさせ262 「責められて」






惚れさせ339 「ハリウッド」

 





惚れさせ371 「席」







惚れさせ398 「申請」






惚れさせ437 「もうそんなになるかー」






惚れさせ530 「半分」











俺と言ったらイタリアだろう。イタリアといったら惚れるだろう。
そんな男(ミラージュ)の場合。


惚れさせ22 「待ち合わせ」




惚れさせ33 「形」





惚れさせ91 「うなずき」







惚れさせ104 「イタリア訛り」







惚れさせ205 「パンナコッタ」





惚れさせ219 「見たことない料理」







惚れさせ273 「急に言われても」














若さにこだわる男(あつしさん)の場合。


惚れさせ494 「聞いたよ」





惚れさせ549 「話の腰折るけど」





惚れさせ550 「なるほど」







惚れさせ597 「もっと」





惚れさせ598 「もっと」
















ネイティヴな発音にこだわる男(時任)の場合。


惚れさせ200 「マクドナルド」





惚れさせ214 「シルバニアファミリー」





惚れさせ269 「2の段」





惚れさせ324 「フォー」






惚れさせ330 「ワー!」







ワー! じゃねえよ。