『セクシーボイス アンド ロボ』の続きが読みたい。
まず、
『セクシーボイス アンド ロボ』とは、小学館発行による漫画雑誌『スピリッツ増刊IKKI』に連載された黒田硫黄著作の漫画作品です。
単行本第一巻は2002年1月1日、第二巻は2003年4月1日に刊行され、未完のまま現在に至っています。
黒田硫黄の著作のレビューによくある表現は
「筆による線で描かれたキャラクターの魅力性」だったり、
「類にないダイナミクス」だったり、
「大胆見事な構図」だったり、
「先の読めない展開性とその結末」だったり、
ブラブラブラ……とあるんですが、『セクシーボイス アンド ロボ』という作品に限ってはそれだけに収まらない作者自身も意図し得なかった物語の発展性が大きく残されているのではないか。
まず単行本の装幀(木村豊)の見事さについて言及したい。
主人公である林二湖(はやし にこ 『いやさ、セクシーボイス。』)が口を開けている顔が描かれています。
色調は第一巻がグリーンとオレンジ、第二巻が蛍光ブルーと蛍光ピンク。
裏表紙にはロボこと須藤威一郎(すどう いいちろう 『あるイミ人を幸せにしてるんだがなあ…』)が描かれています。
口を開けているのは主人公のニコがあらゆる人物の声色を使い分ける特技(声を聞いただけで対象の身体的外見を特定することもできる)を持っているからです。それもあってか、第一巻は少し控えめ、第二巻では目一杯口を開けて何かを言っています。もし、第三巻があるとすればどんな表紙になるのか。
主人公のニコ(
『スパイか占い師になりたい』
)は14歳の女の子でテレクラでサクラのアルバイトをして小遣い稼ぎをしているという何とも荒れた生活をしています。
受話器の声だけを聞き、外見を想像し、待ち合わせ場所に現れる相手を見て答え合わせをする。自分の特技の精度を上げることにもつながっています。
そのアルバイト中、池袋の伯爵という喫茶店で老人と出会う。
老人が持ちかける怪しい話。
子供を誘拐し、年末商戦のイルミネーションを点けるなと脅迫してきている男の電話の声をニコは聞く。
今、この日、この時、この場所で何かできるのは『宇宙で私だけ』というのがニコの行動原理で、老人が持ちかけた危ない仕事を引き受ける動機にもなっています。
家出した放蕩息子の調査。(『それにしても、世の中って恐ろしい生きものがいるね。』)
次世代高速電話のプログラムをした男の調査。(『でも、妻帯者だから、マイナス500点。』)
博打の賭場から500万を持ち逃げした少年(ようかん)の調査。(『みみちいから私なのでございますか。』)
デコ頑と呼ばれたころの老人に出会った節子さんの依頼。(『デコ頑にゃー。セッちゃんにゃー。』)
で、オレンジとグリーンの第一巻は終わる。
スパイもの、というよりは探偵ものによく見られる『巻き起こるカラフルな事件』を少女ニコが大胆見事に解決していくエピソードが続いていく。
だが、第二巻でニコはより深く仕事の世界に関わっていくことになります。
「スパイか占い師になりたい」という14歳のニコが本当にシリアスなケースに立ち会い、それに対して向かい合い、その向こうに行こうとする。
これこそが『セクシーボイス アンド ロボ』の中枢に流れている骨子であり、短編読み切り型のエピソードが回を増すほど異質ともいえる厚みを帯びてくる原因にもなっています。
いわゆる少女が通過儀礼を乗り越えて大人になる成長物語、とも取れますが乗り越える通過儀礼があまりにも硬質で濃厚な闇のような色をしているため、そのときに発せられるセリフは少女ニコ自身に深く突き刺さり、自分がいる世界、そして行こうとしている世界が如何に未踏の領域であるかを再認識させる。
黒田硫黄は読み切りの短編というシチュエーションでなら最高のパフォーマンスを発揮するタイプの漫画家で、さらに言えば、それが自己の趣味性ではなくエンターテインメント性を強く帯びたとき唯一無二の特異な作品へと昇華しています。
茄子 上下巻
大金星 の『Schweitzer』そして『多田博士』。
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短篇集hi mi tsu ki chi ヒミツキチ の『勉強部屋』
これほどの才能を持った漫画家を他に見たことがありません。
『セクシーボイス アンド ロボ』の続きが読みたい。 その2
に続きます。
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