Mail no.1036―『Kafka on the Shore Official Magazine 村上春樹編集長 少年カフカ』より抜粋
私は大学で経済学を勉強しています。経済学とは少し離れた内容ですが社会学、特に消費社会やジェンダーについてゼミで勉強しています。河合隼雄先生の本も読みました。そのなかで“現在人は仕事への意味や拘束が希薄となり、自由な時間が増え、その自由な時間に人生や死について考えなくてもいいように映画やゲーム、音楽などのエンターテイメントに時間を費やしている”ということを学びました。
先生はこのような現状をどのようにお考えですか? 私はカフカ君みたいな読書好きな少年がこれからもっと減ると思います。また最近、本を読むことより映画を見たり、ゲームをしたりすることに時間を費やしている人が多いことについて小説家としてどのように思われますか? (というか私もエンターテイメント大好き人間なんですけどね。)
追伸『海辺のカフカ』、面白かったです。寝る暇を惜しんで、そして授業中も読みました。夢にまででてきました(笑)。でもゼミのM先生には「村上春樹は現実離れしすぎ」と批判されてしまいました…。それでも先生の本を読みつづけるつもりです、応援してます!
21歳で福岡の大学に通っています。
▼Reply to 1036
なるほどね。いちいちむずかしいことを考えないために、エンターテインメントに時間を費やしているんだ。そういえば、最近道を歩きながら携帯で電話をかけている人が多いですね。僕なんかいつもあれこれ考え事をしながら道を歩いているんだけど、そういう人たちはあるいは考え事をしないために携帯で話をしたり、ウォークマンを聴いたりしているのかもしれません。でも考えごとをしながら道を歩くのって、楽しいです。ときどき考え事に集中しすぎて、どこかにぶつかったり、ぜんぜん違う場所にでちゃったりするけど。
あなたのゼミのM先生によると、僕の小説は現実離れしすぎているということですが、実はそんなこともないんです。現実は僕にとってすごく切迫したものです。僕はM先生とは違う角度から現実を眺めているだけなのです。様々な視点を包含して世界は成立しています。
それはそれとして。
以前から、道を歩いていて、携帯も何も手にしていないのに独り言を言ったり、笑っている(にやにやしている)人を見かけます。男性女性に関わらず。
思い出し笑いなのかな、と思っていましたが、見かける頻度がとても高い。
東京ってそんなに住みにくくストレスフルな場所なのかな、と思いましたが、あらゆることに器用に対応できる人が全体の5%いるとします。その反対に、何事についても思うように対応できない不器用な人も同じく5%いるんだと思います。
その中間どちらでもありどちらでもない人たちが90%を占めている。
そう考えると東京都の人口約1300万人の5%、65万人の人が彷徨っているのかもしれません。
その反対にあらゆることに器用に対応できている人の65万人もある意味では彷徨っています。その彷徨い方が違うだけで。
財産でもなく、娯楽でも快楽でもなく、ニューエイジでも精神性でもない現在。理想となるロールモデルが実在していない。
走るのは簡単なんです。
暗闇で、流れに応じず歩いている人を見てみたい。
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