2010年4月8日木曜日
『En la ciudad de Sylvia』
映画『En la ciudad de Sylvia』 (『Dans la Ville de Sylvie』) (『シルビアのいる街で』)
(2007)
監督,脚本,ホセ・ルイス・ゲリン(José Luis Guerín 1960 - )
撮影,ナターシャ・ブレア(Natasha Braier - )
出演,ザビエル・ラフィット(Xavier Lafitte 1974.08.08- )
ピラール・ロペス・デ・アジャラ(Pilar López de Ayala 1978.09.18- )
スペインで主にドキュメンタリーを撮っていた監督ホセ・ルイス・ゲリン。舞台はフランスの北東部、ドイツ国境付近にある街ストラスブール。
なので言葉はフランス語です。字幕がない映像で見たのでほとんどニュアンスでしか理解できず。
同じスペインということもあるのでしょうか。ビクトル・エリセを思い起こさせるシーンがいくつもありました。
絵描きを目指していた男は、数年前に訪れたストラスブールでシルビアという名前の女性と印象的な出会いをした。そして別れ、大事なものを失った。
男は痛んだ心を抱え、自分の住む町に戻り、絵を描こうとして気がついた。女性の顔が描けなくなってしまっていた。画布に向かい、顔を描こうとするとストラスブールが思い起こされ、そこで出会ったシルビアの面影が浮かび上がってくる。だが、描いていけばいくほど、シルビアの面影は記憶の底に沈んでいった。
必ずそこで手が止まった。男が失ったものは画家としては致命的なものだった。
それから、数年後、男は再び彼女に会うために、そして自分が失った何かを確かめるためストラスブールを訪れる。
石畳が続くフランスの街並み。小さなホテルから程近いカフェは、天気がいいこともあってか地元の人と観光客でにぎわっていた。
客の間で交わされる他愛のない話し声。観光客目当ての物売り。客の注文をとる店員。バイオリンを演奏している女性たち。
男はオープンテラスにある席の一つに座り、周りの女性を見てデッサンに描こうとする。だが、やはり顔は描けない。あらゆる女性の中に彼女の面影を見出そうと、男はいくつもデッサンを重ねる。
午後の暖かな時間をカフェで過ごす様々な人々の顔。男はそれらの顔から浮かび上がる瞬きのような表情を見て、何かを感じ取り、それを描きとろうとする。
男は思う。いったい人の顔というのはどういうものなのだろうか、と。それはただ単に目と鼻の形の違いであったり、バランスの良い配置が意味成すものなのだろうか。
男にとって顔が意味するものは、形の違いやバランスの良さなどではなかった。それは、表面上の美しさとは別のところにある、自分を奥底に惹きつける確かなものだった。それが何なのか、それを描きたかった。それは人それぞれが持っている、表情の向こう側にあるその人そのものだった。
男は、人々の表情を違った角度で描こうと外側の席へと移り、デッサン帳を広げる。そこから見える店内には一人の女性客の顔があった。暖かな陽射しの中、店内にいる赤い服に身をまとった彼女にはシルビアの面影があるように見えた。赤い服の彼女はバッグを肩にかけ、店を出ようとしていた。
男は席を立ち、彼女に声をかけようと後を追った。
赤い服の彼女は、石畳が続く街並みを足早に歩く。感情。誤解。焦燥。失った彼女の面影を男は追った。街で日常を営む人々。学生。老人。男は彼女の背後から名前を呼んでみたが、反応はなかった。足早に移動し続ける二人。石畳を踏む大きな音と靴底と石が擦れたような小さな音がしていた。
古くからある石造りの家々に響く足音。 そして静寂。
ストラスブールの街には、急速な変化を必要としない景色があった。そして、そこには人々の思いが残っていた。ただそこに居る人。空き瓶が道を転がる。音が鳴る。走る子ども。歩く人びと。自転車に乗っている人びと。座っている老人。面影を追い続ける男。
一度は見失った彼女を見つけ、乗り込んだトラム(路面電車)の中で男は彼女に声をかける。
男は言う。覚えてないかな。数年前、君に会ったことがあるんだよ。ずいぶん前のことだから忘れてるかもしれないけど。
結局、それは人違いだった。赤い服の女性はシルビアではなかった。
彼女にしてみたら、自分の後を追いかけてくる見知らぬ男を警戒し、足早に歩いているだけだった。男は自分の非礼に気づいた。謝りようもなかった。赤い服の女性は次の停車駅で降りていった。
男は再び街を歩いた。そして人々の顔を描こうとした。昼は公園だったり、夜はバーだったり。
翌日、男は再び街に出て、トラムの停車駅にいるたくさんの人々の表情の中にシルビアを探した。強い風が吹いていた。デッサン帳のページがめくれ、女性の長い髪は生きもののように舞っていた。
行きかう人々。到着し、去っていく電車。その窓ガラス越しに見える人々の姿。そのガラス窓に、駅で待っている人々の姿も反射して映っていた。いくつもの顔が透けて、反射し、重なって見えた。その中に一人の女性の顔が見える。それこそがシルビアの顔だった。男は静かにそれを見ていた。風でめくれるデッサン帳のページには顔のないたくさんの女性が描かれていた。
素晴らしい映画でした。それに尽きます。
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